ポルトガルのアズレージョ地方にあるエルヴァスは、スペインと隣り合わせの町です。隣国との戦いの時代、エルヴァスは国境を守る大切な役割を担っていました。町を守り抜くために築かれたのが、壁に囲まれた鉄壁の町と、その周りの要塞群です。空から見るとまるで星形のように見えるエルヴァス。今回は、そんな不思議な景観のある守りの町、エルヴァスのご紹介です!
概要と歴史
オリーブやコルクの木が点々と立つ広大なアレンテージョ地方の大地に、突如現れる異様な地形。地上からだと少しわかりにくいかもしれませんが、空から見ると、茶色の大地に星形模様が埋め込まれているように見えます。この一風変わった景観がある町が、スペインまでおよそ12kmと国境近くにある町のエルヴァス(Elvas)です。
エルヴァスは、強固な塁壁と要塞に守られた「防衛の町」として歴史上大切な役割を担い、今もなおその名残の中で人々の生活が営まれています。ローマ帝国時代、イスラム統治時代の城壁や要塞も一部残るものの、現在残る塁壁の多くは17世紀に築かれたものです。
隣国カスティーリャ王国との争いが繰り返された17世紀ごろ、国境近くに位置するエルヴァスはポルトガル王国の防衛において重要なポジションにありました。敵の侵入から、国を守るために欠かせなかったのが強固な砦です。
エルヴァスの中心地を守るため、町の周りにある小高い丘の上には大小さまざまな要塞が築かれました。丘の上から平原を見渡し、いち早く敵を見つけて攻撃をしかけたり、守りを固めたりすることで町の中枢を守ったのです。
要塞のなかには、星形のように見える独特な構造のものもありました。要塞の至る所にある穴で360°敵を見張り、敵が攻めてきた際には星形の先端部から大砲でいち早く撃退。さらに接近戦になった場合も、星形構造をしていることで敵を多方面から攻撃をすることを可能にし、有利に攻撃できたのです。このようなヨーロッパ発祥の星形要塞は、幕末期の日本でも取り入れられました。北海道の五稜郭などが、日本の星形要塞として有名ですね。
工夫の凝らされた大規模な要塞により、エルヴァスは守りの強固な国境防衛都市となります。19世紀初頭には、ポルトガルに侵攻したナポレオン軍をも撃退したともいわれています。
常に緊張感と隣り合わせの町だったエルヴァスも、今ではアレンテージョ地方の独特のゆるやかな時間が流れる、のんびりとした町に落ち着いています。しかし、戦いと守りの時代を思い起こさせる塁壁や要塞は、今もその場所に残ります。また、かつての軍事病院はホテルに、軍事市場は倉庫に活用されるなど、昔の建物を上手に活かす工夫も見られます。
世界最大規模の要塞都市として、2012年には、エルヴァスの歴史地区とその周りの要塞が世界遺産に認定をされました。
基本情報・アクセス
まずはポルトガルの主要都市からエルヴァスまでのアクセス方法、そして歴史地区とその周りの要塞群の巡り方についての情報です。
アクセス難易度
エルヴァスまでのアクセス難易度:★★★
★☆☆…簡単!ポルトガル観光定番スポット
★★☆…やや難。大都市からちょっと足を伸ばして
★★★…奥地。電車やバスを乗り継いで
アレンテージョ地方のはずれにあるエルヴァスは、観光地としてはややマイナーな町かもしれません。どこか別の町への移動途中に立ち寄りやすい場所でもないので、リスボンやエヴォラからは、エルヴァスを目的地に旅をすることになるでしょう。
エルヴァスまでのアクセス方法
リスボンからのアクセス
バス:
リスボンのセッテ・リオス(Sete Rios)ターミナルからエルヴァスのバスターミナルまで3~4時間(Rede Expressos社のバス利用・1日3便ほど)。
エヴォラのバスターミナルからエルヴァスのバスターミナルまでおよそ1時間半(Rede Expressos社またはRodoviária do Alentejo社のバス利用)。
バスターミナルから歴史地区の中心部レプブリカ広場までは、徒歩で20分ほどです。北方面に向かって坂道を進み、オリベンサ門(Portas de Olivença)をくぐって歴史地区内に進みましょう。
リスボンのオリエンテ駅からエルヴァス駅まで電車で行くことも可能ですが、1日1本ほどで乗り換えが必要なうえ、4~5時間かかるのであまりおすすめしません。
観光の所要時間
エルヴァス観光の所要時間:1日
塁壁に囲まれたエルヴァスの歴史地区は歩いて回れる広さに収まっていますが、歴史地区外側の要塞群や水道橋などは、歩くと少し距離があります。
エルヴァスの見どころでもある歴史地区、サンタ・ルジア要塞、アモレイラ水道橋を効率よく周るのであれば半日でも回れますが、町の北にあるグラサ要塞まで足をのばす場合は1日みておくと安心です。アレンテージョ地方の中心都市エヴォラで1泊できるのであれば、エルヴァス観光にもゆとりができるでしょう。
※エヴォラについてもっと詳しく!→「町全体がまるで博物館!時代を超えた遺産が共存するエヴォラ歴史地区」
エルヴァスの見どころ
エルヴァスの見どころは、塁壁に囲まれた歴史地区と、塁壁の周りの要塞群や水道橋に分けられます。今回はまず歴史地区を巡り、その後この町を鉄壁の守りにした周りの施設も見ていきましょう。
なお、ご紹介するエルヴァス城や要塞群は、季節や曜日、時間帯によっては閉館している場合があります。要塞群は中心部から坂道を進むことになるので、営業しているかどうかは事前にレプブリカ広場にある観光インフォメーションセンターで確認しておくことをおすすめします。
エルヴァス歴史地区
エルヴァスの歴史地区は周りを塁壁と空堀で囲まれており、入口はたったの3箇所しかありません。車1台がやっと通れるほどの幅の道を通って、2つのゲートをくぐってやっと歴史地区の中に入れます。これは敵方も攻めづらいだろうな…と思わずにはいられない構造も楽しみながら、町の中へ。
曲がりくねった路地を進み、幾何学模様の石畳が美しいレプブリカ広場までたどり着けたら、ようやくエルヴァス歴史地区の中心地に到着です。
ノッサ・セニョーラ・ダ・アスンサォン教会
レプブリカ広場に面して建つノッサ・セニョーラ・ダ・アスンサォン教会(Igreja de Nossa Senhora da Assunção)は、16世紀に建設が始まった建築物です。司教座がエヴォラに移される19世紀後半までは「エルヴァス大聖堂」の名で機能をしていましたが、現在は大聖堂としての役割を終えています。
後にご紹介する、アモレイラの水道橋を担当した建築家フランシスコ・デ・アルダが、水道橋のプロジェクトに次いで手掛けたといわれています。当初はマヌエル様式を主とする建築物でしたが、その後さまざまな様式が合わさり現在の姿になりました。教会内部の丸天井の美しい唐草模様が見どころです。
エルヴァス城
歴史地区内の北部にある歴史地区で一番高い位置には、イスラム統治時代に築かれたエルヴァス城(Castelo de Elva)があります。このお城の一番のハイライトは、城壁から眺めるアレンテージョ地方のパノラマです。歴史地区を見守るために四方に築かれた要塞群や、隣国スペインの大地もここから見渡せますよ。
サンタ・ルジア要塞
エルヴァスの旧市街を囲む要塞にはさまざまな形のものがありますが、とりわけくっきりと星形に見えるのが町の南方を守るサンタ・ルジア要塞(Forte de Santa Luzia)です。バスターミナルの近くにあり、歴史地区からも徒歩20分ほどで行けるので、比較的訪れやすいスポットといえるでしょう。ただし、サンタ・ルジア要塞などの要塞群はいずれも坂を登った丘の上にあります。体力は温存しながらエルヴァス観光を続けましょう。
サンタ・ルジア要塞には、現役時は300~400人もの人々が過ごしたといわれています。現在も大砲が残っていたり、兵隊が立っていたりと、現役時代の面影が感じられる演出も楽しんでくださいね。また、建物内部には軍事博物館があります。
その他の要塞
歴史地区の北部の高台にあるのが、少し前まで刑務所として活用をされていたグラサ要塞(Forte da Graça)です。こちらは歴史地区から歩くと1時間ほどかかるので、タクシーやレンタカーで向かうのがおすすめ。
世界遺産に認定をされているそのほかの要塞群としては、サン・マメデ小要塞・サン・ペドロ小要塞・サン・ドミンゴス小要塞などが含まれます。
アモレイラの水道橋
15世紀に建設が始まったアモレイラの水道橋(Aqueduto da Amoreira)は、全長およそ7kmありイベリア半島最長といわれています。戦いの状況下、水の確保は最重要課題のひとつでした。塁壁の周りを敵に囲まれた場合でも、水道橋を設けたことで水を壁の内側の町中まで運び込むことができたのです。
ベレンの塔を手がけたフランシスコ・デ・アルダが建設に携わり、つい最近まで現役だったというから驚きです。高い所では30mを超える高さになる水道橋がアレンテージョの平原にズドンと走る姿は壮観ですよ。
エルヴァスおすすめのグルメ
エルヴァスに来たら外せない、とっておきの郷土菓子が、プラムを添えたセリカイア(Sericaia)です。プラムはブドウやオリーブと並び、この地域の名産品。16世紀ごろから栽培が始まり、戦いの時代には、シロップ漬けにしたプラムが貴重な保存食でした。
このプラムのコンポートを添えて食べるのが、セリカイアというお菓子。卵・砂糖・牛乳・小麦粉でできたスフレ食感のケーキで、レモンの皮とシナモンがアクセントです。甘酸っぱいプラムと素朴な味のケーキの組み合わせは、まったり甘いポルトガルのお菓子のなかでは比較的甘さ控えめ。
リスボンやポルトではなかなか出会えないスイーツなので、エルヴァスやエヴォラなど、アレンテージョ地方までたどりついたからには見逃せませんね。
スポットマップ
まとめ
星形要塞のある町、エルヴァスのご紹介でした。ポルトガルの国境と土地を守るために築かれたさまざまな建造物を目にすると、はるか昔の戦いの光景が思い浮かぶかもしれません。アレンテージョ地方を訪れる際は、ぜひポルトガルの通な世界遺産スポットのエルヴァスまで足を伸ばしてみてくださいね。
※各施設・店舗の情報は2021年3月の情報です。今後変わる可能性がありますので、最新の情報は公式HPなどでご確認ください。
この記事へのコメントはありません。