ポルトガル中部にあるトマールは、三大騎士団のひとつにも数えられるテンプル騎士団の拠点として中世ポルトガルにおいて特別な役割を果たした都市でした。この記事では、時代の移り変わりとともに組織の形を変えつつ、さまざまな建築様式を取り入れながら成長を続けたトマールの世界遺産スポット「キリスト教修道院」の内部をご紹介します。
概要と歴史
ポルトガル中部の町、トマールはポルトガルの数ある歴史都市の中でも一風変わった性格を持っています。それは、中世のテンプル騎士団の拠点の町であったということ。騎士でもあり、修道士でもあった彼らの暮らしが垣間見えるのがトマールの町を見守る丘の上にそびえるキリスト教修道院です。
古代ローマ帝国の一都市だったトマールが、重要性を増すのは12世紀以降のことです。ムーア人からの国土回復運動(レコンキスタ)において功績を認められたテンプル騎士団が、ポルトガル初代国王アフォンソ1世からこの地を恩賞として与えられました。以後、トマールはポルトガルにおけるテンプル騎士団の活動の拠点の町となり、修道院の建設が始まります。
修道院は1160年に建設開始、以後16世紀まで続く大事業でした。建設途中の1312年、十字軍としての存在意義を失ったテンプル騎士団はローマ教皇により解散令を受けて消滅。その後ポルトガルのテンプル騎士団は、ポルトガル独自の教団「キリスト教騎士団」として再編されこのトマールの地で活動を続けます。
15世紀には、キリスト教の布教を進めるエンリケ航海王子もキリスト教騎士団の団長を務めています。エンリケ航海王子が推し進めた大航海時代の背景には、キリスト騎士団の潤沢な富と知識というバックアップがあったと言われているのです。
また、エンリケ航海王子は現在のトマールの町の基礎を築きました。今ではトマールの風景に欠かせないナバォン川の治水工事にとくに力を注いだと言われています。
1834年すべての騎士団がトマールから去りました。その1世紀半後、トマールのキリスト教修道院はリスボンのベレン地区のジェロニモス修道院とベレンの塔などと同じポルトガルで最初の世界遺産のひとつとして認定をされました。トマールの町には今でもテンプル騎士団のシンボルである赤い十字マークが至る所に見られます。
※テンプル騎士団
「聖」の修道士、「俗」の騎士という、相反する立場両方を兼ねた修道騎士団。第一回十字軍がイスラム教徒から奪還したエルサレムへ巡礼するキリスト教徒の保護を目的に、12世紀に設立されました。ヨハネ騎士団、ドイツ騎士団と並ぶ三大騎士団のひとつです。
基本情報
トマールはリスボンからのアクセスも良好、日帰りでも行きやすい世界遺産の町です。まずはそのアクセス方法、そして一緒に回りたい、周辺の世界遺産スポットもご紹介します。
アクセス難易度
アクセス難易度:★☆☆
★☆☆…簡単!ポルトガル観光定番スポット
★★☆…やや難。大都市からちょっと足を伸ばして
★★★…奥地。電車やバスを乗り継いで
定番スポットとまでは行かないかもしれませんが、トマールはリスボンから鉄道、バス両方でのアクセスが容易なお手軽世界遺産スポット。移動手段の選択肢が豊富なので、プランに合わせた行程が組めるのがポイントです。
また、トマールの近郊にはアルコバサやバターリャなど、同じく世界遺産に認定をされている建築物がある町が点在しています。少し余裕のある日程ならば、リスボン近郊の世界遺産を一気に巡る旅、というプランもおすすめですよ。
アルコバサについてもっと詳しく!→「ポルトガルで語り継がれる悲恋物語の主役が眠るアルコバサ修道院」
バターリャについてもっと詳しく!→「中世ポルトガルの勝利と独立の象徴!世界遺産バターリャ修道院」
トマールへのアクセス方法
トマールへはリスボンからは鉄道・バス共に片道2時間以内でのアクセスが可能。また、ポルトガル第3の都市コインブラからも電車またはバスを使って2時間半ほどで行くことができます。便数は鉄道の方が多いです。
リスボンからのアクセス
鉄道:リスボンのオリエンテ(Oriente)駅からトマール(Tomar)駅までおよそ1時間30分~2時間
(普通列車RegionalまたはInterRegional利用・1日10~16便)
※ICやAP使用の乗り継ぎ便もあるが費用面・時間を考えると普通列車(R)がベスト
バス:リスボンのセッテ・リオス(Sete Rios)ターミナルからトマールのバスターミナルまでおよそ1時間45分(Rede Expressos社の高速バス利用・1日4便ほど)
観光の所要時間
トマール観光の所要時間:半日
キリスト教修道院をメインに据えるのであれば半日あればじっくり見て回れます。そのままふもとのトマールの市内をじっくりと巡るのもよし、テージョ地方を走る路線バスに乗ればほかの世界遺産都市、アルコバサやバターリャへ行くこともできます。本数は多くないので、時刻表の事前チェックは必須です。同じ地域にある中心都市、レイリアで一泊するとゆとりをもって巡れるでしょう。
・アルコバサまでおよそ2時間(1日2便)
・バターリャまでおよそ1時間半(1日2便)
・レイリアまでおよそおよそ1時間半(1日4便)
参考HP:テージョバス-Rodoviária do Tejo
キリスト教修道院の見どころ
ここからは、トマールの町の中心地からキリスト教修道院へのアクセス、そして修道院内部の見どころなどをお伝えします。
キリスト教修道院までのアクセス
トマールの鉄道駅、バスステーションはともに町の中心地の南に位置します。トマールに到着したら、北に向かって歩くと10分ほどでトマールの中心地に到着。キリスト教修道院は町の東にそびえる山の上にあります。
山の頂上に向かって10分ほど登った先に、立派な城壁に守られたキリスト教修道院が現れます。頑張って登ったゴール地点からはトマールの町も一望できますよ。
キリスト教修道院を巡ろう!
およそ4世紀もの歳月に渡って増改築が行われたキリスト教修道院では、さまざまな時代の建築様式を反映した空間の融合がひとつの見どころ。ロマネスク様式に始まり、ゴシック様式、マヌエル様式からルネッサンス様式、そしてバロック様式など、その時代時代こだわりの空間が一堂に会します。
チケットを購入して見学開始。順番に修道院のなかの見どころを巡っていきましょう。
沐浴の回廊(Claustro da Lavagem)
チケットを買って入場したら、まずは入り口近くにある2つの回廊へ。
沐浴の回廊は、キリスト教騎士団長であったエンリケ航海王子により15世期に増築をされました。ここで修道士たちが洗濯や沐浴を行ったと言われています。回廊の外側にはエンリケ航海王子の住処であった宮殿跡があります。
墓の回廊(Claustro do Cemitério)
沐浴の回廊と同時に増築された回廊であり、修道士たちの墓所として使われました。ヴァスコ・ダ・ガマの弟がこの地で眠っています。沐浴の回廊と共に、白と青を基調とした美しいアズレージョで覆われた空間です。
テンプル騎士団聖堂(Charola)
キリスト教修道院の中心部にそびえる聖堂は、キリスト教修道院の見どころのひとつ。豪華絢爛な装飾が施された内部は8角系のドーム型をしており、16世紀に描かれたフレスコ画で覆われています。礼拝を行う騎士たちは、すぐに出撃できるように馬に乗ったまま礼拝を行いました。
主回廊(Claustro Principal)
別名ドン・ジョアン3世回廊。16世紀に、ベレンのジェロニモス修道院の建築にも携わったジョアン・デ・カステーリョにより増築をされました。イタリアのルネサンス様式による優雅で重厚な造りが特徴です。
マヌエル様式の窓(Janela do Capítulo)
テンプル騎士団聖堂の西側の壁にある大窓もキリスト教修道院の見逃せないスポット。サンタ・バルバラの回廊の2階から間近に見ることができます。大航海時代を思わせるサンゴや鎖などのモチーフが窓枠にぎっしりと彫られており、ひとつの窓にポルトガルが栄華を誇った時代の物語が詰まっています。経年により黄土色に変色はしているものの、その精巧な彫刻は今でも圧倒的な存在感です。
ミシャの回廊(Claustro da Micha)
修道院の西側にある2つの回廊、ミシャの回廊、カラスの回廊は見習いの修道士が主に使う空間でした。そのため、東側の主回廊や沐浴の回廊などと比べるとシンプルで小規模な造りをしています。 かつて、この場所で貧しい人々にパンがふるまわれていたことからパンの回廊とも呼ばれます。
カラスの回廊(Claustro dos Corvos)
こちらのカラスの回廊にはカフェが併設されています。一通りめぐったらここで一休みしましょう。
ここまでがキリスト教修道院の主な見どころでした。 そのほかにも、修道士たちが日々暮らした小部屋や食堂、厨房など修道院内に見どころは満載。修道院と周りの庭園をぐるっと囲む城壁を散策することもできるので、じっくり回るとあっという間に何時間も経っていることでしょう。
キリスト教修道院(Convento de Cristo)
住所:Igreja do Castelo Templário, 2300-000 Tomar
営業時間: 9:00~17:30(10月~5月) 9:00~18:30(6月~9月)
休業日: 1/1・3/1・聖日曜日(イースターサンデー)・5/1・12/25
入場料: 6€ ※アルコバサ修道院、バターリャ修道院とのセット券15€(7日間有効)
HP: キリスト教修道院
トマールのタブレイロス祭り(Festa dos Tabuleiros)
トマールでキリスト教修道院のほかに有名なのが、4年に1度、7月上旬に行われる「タブレイロスの祭り」です。
町中がカラフルな装飾で町中が彩られるこのお祭りの見どころは、パンと花を高く積み上げたお盆(タブレイロ)を頭の上に載せた白い民族衣装をまとった女性の行進です。女性の頭上高く積み上げられたパンは身長と同じ高さまであると言われており、女性の隣にはサポート役の男性が付き添って歩きます。
小さな町が彩りと賑やかさであふれる、とっておきのお祭り。次回は2023年の予定です。
スポットマップ
まとめ
ポルトガル世界遺産のひとつ、トマールのキリスト教修道院のご紹介でした。テンプル騎士団、というと小説『ダ・ヴィンチ・コード』を思い出す方もいるのではないでしょうか?小説や映画で耳にしたことのあるテンプル騎士団の面影が今も残るキリスト教修道院は、ポルトガルファンはもちろん、ヨーロッパ史好きの方にも見逃せない注目スポットです。アクセスも簡単、次にリスボンを訪れた際は、ぜひ訪れたい町候補に挙げてくださいね。
※各施設・店舗の情報は2020年10月の情報です。今後変わる可能性がありますので、最新の情報は公式HPなどでご確認ください。
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