途方もなく昔の人々が岩肌に描いた壁画が、ポルトガル北部の山奥にあります。それが、世界遺産にもなっているコア渓谷。土地開発の過程で発見されたこの遺跡は、現在は一帯がコア公園となり、限られた壁画のみ公開をされています。
この記事では、ちょっと難易度の高いコア渓谷への行き方から各コースの特徴と詳細、山奥グルメまでご紹介します。
概要と歴史
ポルトの町を流れるドウロ川をずっと上流のスペイン国境近くまで進み、支流のコア川と合流するところにある町がヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアです。コア川は、この町から南方向へ135kmの位置にあるサブガルという町を源流とします。そして、コア川の下流一帯には、雄大な山々の連なりとその間を流れる穏やかなコア川からなるコア渓谷が広がります。
ポルトガル国土の中でも特に奥地感のあるこの土地が、1990年代前半に世界的な注目を突然浴びることとなります。それが、2万年以上に岩壁に掘られた彫刻群の発見でした。この土地に水力発電施設を建設するにあたっての土地調査で発見されたのです。
古代遺跡の発見により、ポルトガル国内では遺跡の保存か、工事の続行かで意見が割れました。最終的に当時の首相が工事の建設の中止を発表、遺跡群のある一帯は公園として維持・保存の方針へと動き出したのです。この一連の騒ぎは、ポルトガルのみならず各国から注目を集めました。公園設立から2年後の1998年、コア渓谷の遺跡群は世界遺産に登録されます。
コア渓谷の大きな特徴は、数々の彫刻が屋外に大規模に残っているという事。フランスのラスコー洞窟の壁画のように、洞窟内での彫刻は世界中に多く残るものの、屋外に残る彫刻としては世界でも類を見ない規模の岩絵群なのです。
ちなみに、日本で発見されている遺跡を比較した場合、青森県の三内丸山遺跡から出土した縄文土器に描かれた人物像がおよそ4300年前のもの、高松塚古墳壁画がおよそ1300年前のものです。2万年も前という、途方もなく昔の遺跡が今もこの目で見られる貴重な世界遺産であることが分かりますね。
2010年には国境を挟んだスペインのシエガ・ヴェルデが世界遺産の範囲に追加登録をされました。
現在、コア渓谷沿いには全部で80ヶ所以上の岩絵群が存在しており、各エリアに残る岩絵の数は1200に及ぶと言われます。ただし現在私たちが目にすることができるのはそのうちの3ヶ所のみ、ガイド付きのツアーに参加することによってのみ見学が可能です。
基本情報
コア渓谷の岩絵群にたどり着くまでの道のりは容易ではありません。事前準備、日程の余裕ともに必要となりますが、実際に壁画を目にすることができた時の感慨はひとしおでしょう。まずは、コア渓谷までのアクセス方法と、遺跡を見るための方法について説明します。
アクセス難易度
アクセス難易度:★★★
★☆☆…簡単!ポルトガル観光定番スポット
★★☆…やや難。大都市からちょっと足を伸ばして
★★★…奥地。電車やバスを乗り継いで
公共交通機関を使う場合は、コア渓谷はポルトガル本土の世界遺産の中ではもっとも行くのが難しい世界遺産かもしれません。リスボン、ポルトいずれの町からでも電車またはバスで内陸奥深くの町まで行き、そこからタクシーで美術館へ。さらにそこからツアーのジープに乗ってコア渓谷の彫刻群を見学します。たどり着くまでは長い道のりですが、その秘境感はトップクラスですね。
コア渓谷へのアクセス方法
リスボンからのアクセス(ヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアまで)
バス:リスボンのセッテ・リオス(Sete Rios)バスターミナルからのヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアのバスターミナルまでおよそ6時間。(rede expressos社利用・1日2便)
ポルトからのアクセス(ヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアまで)
・バス:ポルトのバスターミナル(Campo 24 de Agosto)からヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアのバスターミナルまでおよそ4時間。途中ヴィゼウ(Viseu)またはマセド・デ・カヴァレイロス(Macedo de Cavaleiros)で乗り換えがあります。(rede expressos社またはciti express社利用・1日2~3便)
・鉄道:ポルトのサン・ベント(São Bento)駅またはカンパニャン(Campanhã)駅からポシーニョ(Pocinho)駅までおよそ3時間半~4時間。(都市近郊線Urbanoまたは普通列車InterRegional利用・1日およそ5便)。ポシーニョ駅からはタクシーでヴィラ・ノヴァ・デ・フォス・コアまたはコア博物館へ(10~15分)。
見学方法
現在発見されている彫刻群はおよそ80ヶ所、そのうち3ヶ所のみが一般に公開されています。この3ヶ所はいずれもガイドツアーに参加することによってのみ、立ち入りが可能。コア渓谷を訪れる際は、必ず事前にツアーの参加予約をしておきましょう。
申し込みはコア博物館のHPから、コースはいずれも一人当たり16€です。
観光の所要時間
コア渓谷の彫刻群:1日~2日
コア渓谷へリスボンやポルトから日帰りで行くのであれば、朝早くに出発しても博物館・ガイドツアーに参加して戻ってくることには日が暮れるくらいの時間になるでしょう。また、3つの彫刻群のうち、2ヶ所以上を巡るのであれば現地で一泊する必要があります。
コア渓谷の先史時代の岩絵遺跡群
ポルトガル国内で現在見学が可能な遺跡群は全部で3ヶ所あります。ここからはそれぞれの遺跡群の特徴と、ガイドツアーの起点でもあるコア博物館を紹介します。
カナダ・ド・インフェルノ(Canada do Inferno)
1991年に初めて彫刻が発見されたのがこのエリアでした。コア博物館のモチーフにもなっている山羊の岩絵が有名です。
エリア:コア川の左岸
スタート地点:コア博物館
スタート時間:午前中(コア博物館の休館日を除く)
所用時間:1時間半~2時間
移動距離(徒歩):800m
難易度:易
見学できる彫刻の数:6
ヒベイラ・デ・ピスコシュ(Ribeira de Piscos)
彫刻のなかでも珍しい人物像が彫られている岩を見学できるコースです。素晴らしい景色や地域特有の動植物に触れることのできるエリアでもあります。
エリア:コア側左岸
スタート地点: コア博物館
スタート時間: 午前中(コア博物館の休館日を除く)
所用時間: 2時間半
移動距離(徒歩):2200m
難易度: 中
見学できる彫刻の数:5
ペナスコーザ(Penascosa)
旧石器時代の彫刻が数多く残る人気のエリア。アーモンドとオリーブの木がたくさん植えられている道路を通って彫刻エリアへ向かいます。
エリア:コア川の右岸
スタート地点: カステロ・メリョールの受付センター
スタート時間: 午後(受付センターの休館日を除く)
所用時間: 1時間半
移動距離(徒歩):600m
難易度: とても易
見学できる彫刻の数:5
コア博物館
コア渓谷の世界遺産認定範囲がスペインのシエガ・ヴェルデまで拡張されたのと同時の2010年、コア渓谷を見下ろす高台に完成したのがコア博物館です。
博物館といえども、館内に展示されるのはレプリカや最先端のデジタルアートが中心。あくまで主役は屋外の彫刻群のため、理解を深めるための博物館といった立ち位置にあります。とはいえ、7つの部屋に分けられた展示室は見ごたえ満載。自由見学のほか、館内のガイドツアーも用意されています。
また、館内には食事にも、ちょっとした休憩にも使えるパノラマビューのレストランも併設されています。ポートワインを味わいながら、コア渓谷の雄大な景色を眺めてくださいね。
コア博物館(Museu do Côa)
住所:Fundação Côa Parque, Rua do Museu, 5150-620 Vila Nova de Foz Côa
営業時間:9:00~17:30(10月~2月)9:30~18:00(3月~5月)9:30~19:00(6月~9月)
休館日:1/1・5/1・12/25
入場料: 6€(ガイドツアー+2€)
HP:コア渓谷・博物館
まるで桜みたい!薄ピンク色のアーモンドの花
2月から3月にドウロ川上流を訪れるときっと目にするのが、アーモンドの花。わたしたち日本人がみると、きっと「桜の花!?」と思ってしまうような、薄いピンク色の小さな花があちらこちらで咲いているはずです。日本の桜の季節よりも一足早く咲き始めるアーモンドの花は、春の訪れを予感させるのではないでしょうか。
コア渓谷エリアのおすすめのグルメ
ポルトガルには、北部を中心に豊富な種類の腸詰めソーセージが造られていますが、燻製好きのあなたにおすすめなのがサルピカォン(salpicão)。チョリソー(腸詰めソーセージ)の一種です。
日本で見るような一般的なソーセージよりもはるかに太くゴツゴツとした、まるでチャーシューのような見た目をしています。豚ロース肉を使用し、スパイスやワイン、パプリカなどの調味料でじっくりと熟成されたサルピカォンは、噛むほどに旨味が口中にじわっと広がる奥深い味わい。
スライスしてシンプルにパンに挟んで食べる軽食スタイルのほか、ポルトガル北部の内陸部のレストランではレッドビーンズのリゾットに添えられる料理(Arroz de Salpicão)が隠れた絶品メニュー。素朴な豆ごはんに、ガツンと味わい深いサルピカォンが組み合わさって絶妙のバランスです。ポルトガルの山奥に行ったら、ぜひバリエーション豊富な腸詰めソーセージを堪能してくださいね。
スポットマップ
まとめ
ポルトガルの世界遺産に多いきらびやかな宮殿、壮観な大聖堂などとはちょっと趣の異なるコア渓谷の岩絵遺跡群。ちょっと行きづらい点もまた、有史以前の遺跡ならではです。
まだまだ謎の多い先史時代ですが、私たちと同じように「絵」を用いて何かを表現する技が2万年前の人々にもあったのだと思うと、はるか昔の人々にどこか親しみを覚えることでしょう。ぜひ実際に、大昔の人々の感性に触れてみてくださいね。
※各施設・店舗の情報は2020年9月の情報です。今後変わる可能性がありますので、最新の情報は公式HPなどでご確認ください。
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