大西洋に面した潟(ラグーン)に囲まれた水の都アヴェイロ(Aveiro)。ポルトガルきっての塩の産地としても知られています。かつて海藻を運んだ小舟・モリセイロ(moliceiro)が運河を行き交い、背後に広がる色彩豊かな旧市街の建物が織りなす風景は「ポルトガルのヴェニス」と称される美しさで、訪れる人を魅了しています。
今回は歴史情緒漂う中心部から、地平線上にどこまでも続く塩田や話題のSNS人気スポットまで、アヴェイロの魅力をたっぷり紹介します!
概要と歴史
アヴェイロはポルトガル中部地方(ポルトとコインブラのほぼ中間)に位置し、大西洋に面した天然の良港として昔から重要な役割を果たしてきました。
街の成り立ちはローマ帝国時代、沿岸に広がる肥沃な潟に多くの水鳥が飛来することからラテン語で「Aviarium」と名付けられたことから始まります。
16世紀には主要産業の製塩をはじめ漁業・農業が発展し、さらに遠洋漁業の特許取得で海上貿易の重要拠点として繁栄しました。その矢先、町は大嵐で壊滅的なダメージを受けてしまいますが、19世紀に港が整備されると再び活気を取り戻します。
街のシンボルである運河と色鮮やかなモリセイロや旧市街の趣ある建物が、自然豊かな潟の美しさと調和して唯一無二の風景を作り上げています。
基本情報・アクセス
まずはアヴェイロへのアクセス方法とアヴェイロ市内の交通手段、所要時間の紹介です。この後に紹介する見どころの基本情報は、それぞれの紹介欄をご覧ください。
アクセス難易度
アヴェイロまでのアクセス難易度:★☆☆
★☆☆…簡単!ポルトガル観光定番スポット
★★☆…やや難。大都市からちょっと足を伸ばして
★★★…奥地。電車やバスを乗り継いで
アヴェイロは、ポルトからのショートトリップ先として筆頭にあがる定番の観光地でもあります。ポルトから鉄道1本で行けるため、アクセスも良好。フォトジェニックな港町コスタ・ノヴァと一緒に訪れたい町です。
アヴェイロまでのアクセス方法
ポルトからのアクセス
・鉄道:ポルトのサン・ベント(São Bento)駅からアヴェイロ(Aveiro)駅までおよそ1時間20分(都市近郊線Urbanoのアヴェイロ線利用)
鉄道はおよそ20分おきにサン・ベント駅から発車しています。アヴェイロが終点ですが、行き先をしっかり確認してから乗車するようにしましょう。
リスボンからのアクセス
・鉄道:リスボンのサンタ・アポローニア(Santa Apolónia)駅またはオリエンテ (Oriente)駅からアヴェイロ(Aveiro)駅までおよそ2時間から2時間30分(特急列車Alfa Pendularまたはインターシティー列車(日本の準急と似ている)Intercidades利用)
※特急列車の方がおよそ30分早く到着します。
鉄道は1時間に1〜2本、始発のサンタ・アポローニア駅から発車しています。いずれの列車もオリエンテ駅を経由するので、アクセスしやすい駅から乗車するとよいでしょう。
また、この路線の多くはアヴェイロ駅よりもさらに北へ向かう列車ですので、乗り過ごさないようにしましょう。
アヴェイロ市内の交通手段
アヴェイロはリスボンやポルトのように息が上がるような急坂がほとんどありません。
鉄道の駅から運河や旧市街のある中心部までは、地元の商店や土産店が並ぶ大通りが続いています。道幅もあり平坦で歩きやすい道なので、徒歩20分程度で行くことができます。
近年フォトジェニックな家並がSNSで人気のコスタ・ノヴァ(Costa Nova)には鉄道の駅に隣接したバスターミナル(Transdev社)始発のコスタ・ノヴァ行き(L5951)1本で行くことができます。(1時間に約1本、乗車時間およそ40分。)
同じ路線のバス停が中心部のロシオ庭園近くにもあるので、旧市街など散策した後でもアクセスしやすく便利です。中心部のウンベルト・デルガド広場近くの観光案内所でバス停の場所や時刻表を確認できるので散策前に立ち寄っておくとよいでしょう。
観光の所要時間
アヴェイロ中心部(旧市街と運河クルーズ)のみ:半日
鉄道の駅からのアクセスが良く、中心部に主要な観光スポットが集まっているので、半日あれば散策を十分堪能できます。街のメインとなる中央運河から少し離れた塩田地帯を巡る運河クルーズの乗り場は、中心部にいくつかあるので気軽に利用できます。
旧市街エリアでは種類に富んだ模様が美しいアズレージョで装飾された建物を眺めながら、レストランやカフェ、土産店なども集中しているエリアなので、観光と合わせて食事やショッピングも楽しむことができます。
アヴェイロ中心部とその周辺(コスタ・ノヴァ):1日
アヴェイロは周辺にも魅力的な観光スポットが点在しています。
例えば、ポルトガルの国民食バカリャウ(干鱈)の遠洋漁業で使われていた帆船が見学できる海洋博物館やポルトガルの老舗陶器メーカー「ヴィスタ・アレグレ」の工場など見どころ満載です。
また、アヴェイロ観光にはずせないのが、コスタ・ノヴァ。カラフルなストライプ柄の家が並ぶ様子がおとぎ話の世界のようで可愛いとあらゆる世代に人気なのです。
旧市街の歴史ある雰囲気とはまた違った海辺の開放感と漁師町ならではの趣きがあり、中心部と結ぶバスからの車窓も素晴らしいので、ぜひ足をのばしてみてはいかがでしょうか。
アヴェイロの見どころ
運河
アヴェイロが「水の都」と呼ばれるのは中心部を縦横に流れる運河の存在が大きいでしょう。
運河はかつて農業の肥料として海藻(ポルトガル語でモリッソ)を運ぶために使われた「モリセイロ(moliceiro)」が海岸沿いまで行き来する重要な役割を担っていました。モリセイロは弓矢のようにシュッとした小舟で、舳先に漁の様子や日常の風景が描かれていたり、幾何学模様で縁取られていたりと色鮮やかで凝った作りです。
アヴェイロに来たら絶対外せないのが、今は観光船として活躍するモリセイロに乗って4つの代表的な運河をまわる、運河クルーズです。(1人10€、所要時間はおよそ50分。)
スタート地点の「中央運河」の水路を出発するとすぐに両側に旧市街の街並みが広がります。海側に最も近づく「ピラミデス運河」の先には地元の人から「リア・デ・アヴェイロ」と親しまれる大きな湖のような大きな潟に塩田が広がり、さらにこの2つの運河から垂直に流れる「サン・ロケ運河」に入ると、魚市場や塩を貯蔵する倉庫などアヴェイロの日々の営みが垣間見えます。
再び中央運河に戻り、ウンベルト・デルガド広場の大きな橋の下を抜け「コジョ運河」に入ると、いよいよ運河クルーズのフィナーレへ。運河の行き止まりにそびえる20世紀初頭に建てられた高い煉瓦の煙突が目を引く製陶工場の建物がダイナミックな印象を与えてくれます。現在は市の施設となっていますが、モリセイロと並んで街のシンボルとして親しまれています。
さあ心地よい風に吹かれながら、街の歴史に触れる優雅な時間を堪能しちゃいましょう。
中心街
鉄道の駅からのびる大通りを進むと、中央運河とその両岸に広がる旧市街を望む橋に辿りつきます。そばにあるウンベルト・デルガド広場を中心に、左岸には15世紀の修道院に中世の貴重な品々を展示する「アヴェイロ美術館(Museu de Aveiro)」と併設するカテドラル(聖堂)をはじめ、外観も内部もアズレージョで彩られ金泥細工とマヌエル様式が特徴的な「ミゼリコルディア教会(Igreja da Misericórdia)」など異なる時代の教会建築が集まります。右岸には新鮮なシーフードを楽しめる魚市場(Mercado de peixe)や運河を行き交うモリセイロを眺められる市民の憩いの場「ロシオ庭園(Jardim do Rossio)」があります。
中央運河沿いの通りはレストランやカフェ、土産店が並び観光客でいつも賑やかです。さらに、一歩小道に入ると、通りの喧騒から離れ、19世紀初めのこの街の再興を偲ばせるアールヌーヴォー建築やカラフルな壁と歴史的なアズレージョに飾られた家並に引き込まれます。
旧市街全体は、こじんまりと落ち着いた雰囲気です。街並みを眺めているだけで風情があります。
そして、ポルトガルの街歩きには欠かせない「石畳」も、アヴェイロではモチーフに帆船や貝殻など海にちなんだ可愛らしいデザインが多いです。散策しながら自分のお気に入りを見つけてみるのも楽しいですね。
鉄道駅 アズレージョ
アヴェイロ駅に降り立つとまず出迎えてくれるのが、運河側の出入口面する旧駅舎のファサード(玄関正面部分)と壁一面に飾られた見事なアズレージョです。真っ白な壁に青と黄色の多彩タイルが織りなすコントラストが美しく、日々の生活風景や街の産業である製塩作業の様子から旧市街の運河とモリセイロまで、街の歴史と伝統を全部で8枚のパネルに表現しています。
これらは、アヴェイロ出身の芸術家たちが手がけたものです。
同じく駅舎のアズレージョが美しいことで有名なポルトのサン・ベント駅や、ドウロ川渓谷にあるピニャオン駅などと並んで、ポルトガルが国をあげて「装飾としてのアズレージョの価値」を求めた時期に作られた駅舎のひとつとされています。
まるでそれぞれが1枚の絵画のようで、ポルトガル国内外からアズレージョ作品の傑作として高い評価を受けています。アンティークタイルが醸し出すレトロな雰囲気と活気ある街並みの描写に、この景色に早く出会いたいと心躍らせてくれる場所です。
新駅舎の出口を出たら、少し足を止めてじっくりと鑑賞してみてください。
コスタ・ノヴァ
SNSの普及で一躍世界中から観光客が訪れるようになった話題のコスタ・ノヴァ。日本でもインスタ映えする人気スポットとして注目されています。
アヴェイロの中心部から西に十数㎞、のどかな潟と海岸との間に存在感抜群のカラフルでストライプ模様が可愛らしい家が並びます。
コスタ・ノヴァは直訳すると”新しい沿岸”。その由来は19世紀はじめ、16世紀に街が衰退する原因となった大嵐で壊滅的な打撃を受けた沿岸部が整備されたことから、漁師たちが安心して漁ができるようになり、新しくできたこの砂丘に移り住んできたことといわれます。
このお菓子のパッケージのようにポップでかわいい建物は、昔の漁師が釣り道具を保管する倉庫でした。なぜこんなに目立つ家にしたのかには諸説あって、漁師たちが曇りの日に漁から帰ってきても一目で自分の家がわかるためだとか、バカリャウ(干鱈)漁などで訪れた北欧の街並みに影響を受けたからなど様々です。
現在は建物の多くがレストランやカフェにリノベーションされていて、昔ながらの赤や黄色の原色からピンクや水色といったパステルカラーまでバリエーションに富んでいて、街のどこを切り取っても絵になります。
そして、家並みを横切ると、潟側からは想像がつかないほど美しい白浜の海岸線が続きます。散策にぴったりな木のプロムナードが整備され、海岸向かって右奥にはポルトガルで最も高いバッハ灯台(Farol da Barra)が立つ風光明媚な浜辺は、コスタ・ノヴァのもうひとつの魅力といえるでしょう。
塩田
運河クルーズのハイライトとして紹介されるアヴェイロの塩田。沿岸部には大西洋の海水と潟の淡水が混ざり合う汽水地域が広がり、そこを縫うように大小数多くの水路が張り巡らされた、昔から塩づくりに適した場所でした。
その証拠としてポルトガルの塩に関する最も古い公文書には、959年に当時の伯爵夫人がポルトガル北部にあるギマランイスの修道院へアヴェイロの塩田を寄贈したという記述が残されています。
アヴェイロの塩田は豊富なミネラル分を含んだ海水や海藻に恵まれた土壌のおかげで良質な塩が取れること有名で、「フロール・デ・サル・デ・アヴェイロ(アヴェイロの塩の花)」という名で親しまれ、お土産としても人気です。
晴天の日は塩田に張った海水がキラキラと輝き、春先のあちらこちらに塩の山が作られ、まるで小さなピラミッドのように並ぶ様子はアヴェイロならではの光景です。
最近では塩田を海水浴場として開放する観光施設ができました。
そんな面白い試みを始めたのが200年以上の歴史ある家族経営の製塩所「ノエイリーニャ塩田(Marinha da Noeirinha)」です。(アヴェイロ駅から海岸に向かって徒歩およそ25分、またはタクシー利用)
こちらではここ30年で使われていなかった塩田の一部をプールやレストランを併設したレジャー施設として開放しており、塩田にそのまま浸かって死海のように体を浮かばせたり、泳いだりと少し不思議な感覚を味わえます。
特に夕日が塩田をゆっくりとオレンジ色に照らす光景は心を穏やかにしてくれます。
健康面でも肌の保湿や血流促進などの効能があるそうで、地元の人の間でもちょっと話題なスポットとなっています。
【ここに来たらはずせない!】おすすめのグルメ&お土産
アヴェイロに来たら必ず行きたいお店を2つ紹介します。
コンフェイタリーア・ペイシーニョ
アヴェイロには伝統的な修道院菓子があります。
興味をそそられる”柔らかい卵”を意味する「オーヴォス・モーレス(Ovos moles)」というお菓子は、15世紀にできたジェジュス修道院の修道女が起こした奇跡から生まれたとされています。
パリっとした薄い生地に、甘〜い黄身クリームが詰まってて、どこか日本の最中を思い出させる素朴な味です。形は魚や貝殻など海のものを模っていて、小ぶりで可愛いらしいのでお土産にぴったりです。旧市街のカフェのショーケースにはそれぞれのお店オリジナルのオーヴォス・モーレスが並んでいるので、いろいろな形を見つけてみるのも面白いでしょう。
その中でも1856年創業のアヴェイロで最も古いお菓子屋さんのコンフェイタリーア・ペイシーニョ(Confeitaria Peixinho)は、5世紀にわたってオーヴォス・モーレスのオリジナルレシピを守り抜いてきた老舗です。ショーケースに並ぶお菓子はどれも手作りで家庭的な味と評判で、地元の人にも愛され続けています。
店内は壁の棚一面にパステルカラーの可愛い化粧箱が並べられ、まるでおとぎの国の世界に迷い込んだよう。
2階にティーラウンジがあるので、アヴェイロ散策の一休みに是非立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
【店舗情報】コンフェイタリーア・ペイシーニョ(Confeitaria Peixinho)
住所: Rua de Coimbra 9, Aveiro
営業時間:10:00~19:30
定休日:なし
※リスボン空港の免税店エリアにも出店しています。
クルーベ・デ・ヴェラ・ダ・コスタ・ノヴァ
アヴェイロは旧市街やその周辺に新鮮なシーフードを提供するレストランが数多くありますが、コスタ・ノヴァ観光でおすすめのシーフードレストランを紹介します。
コスタ・ノヴァの潟(ラグーン)エリアにある由緒あるセーリングクラブのひとつ「クルーベ・デ・ヴェラ」が経営するレストラン。コスタ・ノヴァの街並みを模した赤と青のミニチュアのように可愛らしい外観と、クラブのロゴが目印の地元の人が美味しいと太鼓判を押すレストランです。
ガラス張りの開放的な店内からは穏やかなラグーンを眺めることができ、ショートトリップ気分を盛り上げてくれること間違いなしです。
ポルトガルでは前菜の定番でサパテイラ(Sapateira)と呼ばれるカニの身をほぐしてマヨネーズやピクルスと合わせた料理やアヴェイロっ子が好む魚の食べ方でブイヤベースのような煮込み料理「カルデイラーダ(Caldeirada」を中心に豊富なメニューが揃います。
自慢の自家製デザートもオススメ。
【店舗情報】クルーベ・デ・ヴェラ・ダ・コスタ・ノヴァ
(Restaurante Clube da Vela da Costa Nova)
住所:Av. José Estevão, Praia da Costa Nova
営業時間:12:00~24:00 ※営業時間変更あり
定休日:なし
※お店の公式Facebook「Restaurante Clube de Vela」をご確認ください。
スポットマップ
まとめ
潮風かおる旧市街と水平線に果てしなく広がる塩田に思わず時間を忘れて見とれてしまうアヴェイロの風景。来る人の心を穏やかにしてくれます。
そして、この町が自然の恵みと厳しさとともに生き、独自の文化を育んだ証が街中のあちらこちらにちりばめられています。
「ポルトガルのヴェニス」と称される街の美しさは ”百聞は一見に如かず”
ぜひ実際に足を運んで、ご自身の目で確かめてみてください。
※各施設・店舗の情報は2022年1月の情報です。今後変わる可能性がありますので、最新の情報は公式HPなどでご確認ください。
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