ポルトガルの最も美しい村のひとつに称されるオビドス。歴代の王妃に愛された小さな街は白壁の家並や窓際を彩る花々が可愛らしく、まるで街全体がおとぎの国の世界のようです。
小高い丘に現れる重厚な城壁に囲まれた外観と、カラフルで花の香りに包まれたミニチュアのような愛らしい街の雰囲気とのギャップに圧倒されます。
今回は中世にタイムスリップしたような歴史情緒漂う街並みを中心に、ここでしか味わえない魅力満載のおとぎの国の世界へご案内します。
歴史と概要
オビドスは首都リスボンから北に約80㎞に位置し、大西洋に近い高地にあったため、何世紀にもわたって戦略的に重要な港湾拠点として栄えました。
その歴史は古く、イベリア半島にローマ人が到着する前から居住民が確認されているほどです。オビドスはラテン語で”要塞”を意味し、このことからも軍事的に重要な土地であったことが伺えます。
1143年、後の初代国王アフォンソ・エンリケスがイスラム教徒との戦いに勝利し、オビドス周辺の土地を奪還しました。その約1世紀後、コインブラ大学を創設したことで有名な国王ドン・ディニスが既存の要塞を城として整備し、併せて王女たちに別荘を建てる特権も与えたことから、この町がさらに繫栄する転換点となりました。
それを裏付けるように、1282年にドン・ディニス国王が新婚旅行で訪れたこの地をとても気に入り、最愛の王妃イザベルに結婚のプレゼントとして贈った、というロマンチックなエピソードが残っています。
それ以来オビドスは1894年までの約700年間、歴代王妃の直轄地だったことから「王妃の村」や「結婚の街」と呼ばれ、今でもポルトガル王朝ゆかりの地として愛され続けています。
また、近年オビドスは非日常の空間とバラエティーに富んだお祭りが話題を呼び、国内外から多くの観光客が押し寄せる人気の観光スポットとなっています。
基本情報
まずはオビドスへのアクセス方法と所要時間の紹介です。この後に紹介する見どころのスポットの基本情報は、それぞれの紹介欄をご覧ください。
アクセス
アクセス難易度:★☆☆
★☆☆…簡単!ポルトガル観光定番スポット
★★☆…やや難。大都市からちょっと足を伸ばして
★★★…奥地。電車やバスを乗り継いで
オビドスはリスボンから非常に近く、ショートトリップ先としてイチオシの観光地です。リスボンからバス1本で行けるため、アクセスも良好。周囲に聖地ファティマや世界遺産アルコバッサ修道院など、有名観光スポットが集中するエリアにある見逃せない町です。
リスボンからのアクセス
・バス:リスボンの地下鉄カンポ・グランデ(Campo Grande)駅のバスターミナルからオビドス(Óbidos)の城壁入り口近くのバス停までおよそ1時間(テージョ社(A Rodoviária do Tejo)の定期バス「ハピダ・ヴェルデ(Rápida Verde)線」のカルダス・ダ・ハイーニャ(Caldas da Rainha)行きでオビドス下車、片道8ユーロ)
HP: ホドヴィアーリア・ド・テージョ (最新の運行状況や時刻表はこちら)
※カンポ・グランデ駅は地下鉄イエローライン(Linha Amarela)とグリーンライン(Linha Verde)が通っているので、どちらか宿泊先からアクセスしやすい路線を利用しましょう。
また、バス路線の終点はオビドスではなくカルダス・ダ・ハイーニャのバスターミナルになるので、乗り過ごさないように注意しましょう。
<補足情報>
オビドスには中心部から少し離れた鉄道駅もあります。ただ1日の本数が非常に少なく、2時間ほどかかってしまうのでバス利用がオススメです。
観光の所要時間
オビドス中心部:半日
リスボンとオビドスを結ぶバスは往復ともに本数が多く、午後からでも十分楽しめます。
オビドスは城壁に囲まれた小さな村です。城壁に登る場合に多少の勾配がありますが、街の中は歩きやすく、徒歩でまわることができます。街全体がこじんまりとしていて、中心部に主な観光スポットが集まっているので、半日あれば十分楽しめます。
散策にぴったりな街のメインストリート「ディレイタ通り」を歩けば、かわいい雑貨を揃えた土産店や地元の食材を使ったレストランやカフェが軒を連ねます。小道に入ると曲がりくねった狭い道に白壁の家並が続き、小さな路地裏に現れる趣きある景色に出会えます。
王室との関係が深いオビドスの街並みの特徴は、村の大きさに比べて明らかに教会の数が多いことです。この町を愛した歴代の王妃の思いが詰まった教会はどれも見事な佇まいです。
街のシンボルである城壁には少し急な階段を登りますが、街をぐるりと回れるように歩きやすく整備されています。少し目線を変えて街を眺めてみるのも面白いですよ。
冒頭からこの町の”コンパクトさ”を強調していますが、中心部近くの美しい海岸や潟湖など広大で豊かな自然を擁するスケールの大きさも見どころとなっています。
さらに夜のオビドスはやさしい灯りに包まれて、とても幻想的。観光客で賑わう日中の喧騒が嘘のように静寂が街を包みます。
もう少しゆっくり過ごしたい!という方には、城壁の街ならではの趣あるホテルがありますので、1泊するのがおススメです。
オビドスの見どころ
街の玄関口「ポルタ・ダ・ヴィラ」
オビドスの城壁には全部で4つの門があります。その中でも北側にあるイスラム統治時代に築かれた「ポルタ・ダ・ヴィラ( Porta da Vila)」は街のメインゲート。
中心部へ最もアクセスしやすい出入り口で、訪れる人を迎えてくれます。
内部に入ると、まず頭上に見えるドーム型の小さなカトリックのチャペルとバロック様式のベランダが旅行者の興味を惹きつけます。チャペルには、アフォンソ4世が1640年に60年に及んだスペイン支配からの再独立を果たした感謝を表した聖母マリアへの言葉が刻まれており、オビドスの守護聖人ピエダーデが祀られています。
(聖ピエダーデとは、ミケランジェロの有名な作品「ピエタ」から着想された聖母マリアで、彼女が息子イエス・キリストの死に際し、その悲痛な気持ちが亡骸を腕に抱えた姿に表されており、そのことから”痛み”にまつわる聖人とされています。)
その神聖な空間をさらに引き立てるのが、14世紀に築かれた堅固な二重構造の門とチャペルを覆う壁一面を飾る18世紀に修復された見事なアズレージョです。
入り口付近はいつも、中世の面影を残す重厚な佇まいとその美しさを一目眺めようとする観光客でいっぱいです。通り過ぎてしまうにはもったいない、長い歴史の詰まった芸術作品です。足を止めてじっくり鑑賞してみましょう。
中心部 ディレイタ通り
「ポルタ・ダ・ヴィラ」を抜けると、すぐ街の中心に入ります。
遠くにそびえる街のシンボルである城壁に向かって続くのが、「まっすぐな道」を意味する「ディレイタ通り(Rua Direita)」。その名の通り、ポルタ・ダ・ヴィラと宮殿を一直線に結ぶように、南北に街を貫いています。14世紀には既にこの通り名で存在していて、古代のポルトガル語で”城までの最速ルート”という意味だったそうです。
まず目を引くのが両側を白壁に、片方は青色、もう一方は黄色のラインで縁取られた家並と窓際を華やかに飾るブーゲンビリアなど季節の草花たちです。これはまさにオビドスを象徴する光景で、おとぎの国の雰囲気を醸し出しています。
土産店の軒先には、オビドス土産定番の可愛らしい絵付けの陶器や刺繍タオルなど雑貨が並び、手作り菓子や名物のリキュール「ジンジャ(Ginja)」(詳細は「おすすめのグルメ&お土産コーナー」で紹介します。)を提供するカフェがいくつもあります。
通りを半分ほど進むと「サンタ・マリア広場(Praça de Santa Maria)」が見えてきます。広場の中心には「サンタ・マリア教会(Igreja de Santa Maria)」が建っており、白地の質素な外観とは対照的に、内部の美しいアズレージョと貴重な祭壇画が特徴です。
1441年、北アフリカを次々と征服し”アフリカ王”と呼ばれたアフォンソ5世が幼少の際、従妹のイザベルと結婚式を挙げた由緒ある教会です。元々は6世紀頃に西ゴート族が築いたとされ、何度も改築を繰り返したことで、マヌエル様式(※)はじめ、ルネサンス、マニエリスムなど異なる時代の教会建築が随所に見られます。
※マヌエル様式…マヌエル1世治世下の15〜16世紀のポルトガル黄金期に流行した建築様式のこと。大航海時代にちなんだ海のモチーフが特徴。
広場にはもうひとつ、ポルトガル語でペウリーニョ(Peurinho)と呼ばれる古びた石柱があります。一見オブジェのようにも見えますが、実はコレ、大昔に罪人をつるし上げていた台なのです。そう聞くと少し恐ろしいのですが、ポルトガルの街々ではよく見かけるもので、今では中世の様子を彷彿とさせる歴史的モニュメントとなっています。
最近では、オビドスは兼ねてより力を入れていた古い建物を再生する活動が認められ、2015年「ユネスコ創造都市」に選出されました。「文化都市 オビドス」をテーマに、中心部の空き家に個性的な本屋が次々とオープンしました。リスボンやポルトのように大型の書店ではありませんが、ここでしか買えない一冊に出会える絶好のチャンスかもしれません。
城壁とポウザーダ
オビドスの城は、現存する数少ないポルトガル中世の要塞の中でも、非常に保存状態がよい代表例のひとつとして知られています。
現在の城の前身は、おそらくローマ帝国時代の砦が起源とされ、その後のアラブ人(イスラム教徒)支配下では要塞として使われていました。古くから様々な民族がこの土地を支配していたことからも、この土地が地理的にも軍事的にも重要な役割を担っていたことが伺えます。
12世紀に初代国王アフォンソ・エンリケスがアラブ人に勝利したレコンキスタ(国土回復運動)からは何度も増改築が繰り返されることになります。
13世紀に当時の国王ドン・ディニスが要塞としての役割よりも王室の居城の体裁をとるよう整備し、16世紀のポルトガル黄金期を築いた国王マヌエル1世によって、宮殿が建設されました。今でも宮殿の中庭に面した美しいマヌエル様式の窓など当時の栄華を象徴する部屋が残されています。1755年のリスボン大地震で壊滅的なダメージを受けましたが、オビドス周辺で最初のポウザーダ(古城や宮殿、修道院などを改修した国営のホテル)としてオープンするために復元されました。
街を守ってきた城壁は、今は街のシンボルとして登ることもできます。
ビューポイントは2箇所。最初に紹介した「ポルタ・ダ・ヴィラ」を抜けてすぐ左側にある階段からは、絵葉書のような美しい城壁に囲まれた家々が一望できます。そして、ディレイタ通りの終わりにあるサンティアゴ教会(Igreja de São Tiago)後ろの階段を登ると、背後には今歩いてきた街並みが、城壁の隙間からは小高い丘ならではの雄大な景色が広がります。愛らしい中世の街並みと大自然とを交互に眺めながらぐるりと一周するのも楽しいですよ。
そして、時代とともに変遷をとげた城をホテルとして甦らせた「ポウザーダ・デ・オビドス」は一度は泊まってみたい憧れのホテルです。
中世の古城ならではの荘厳なロビーが迎え、スイートを含む全17部屋の豪華絢爛な客室は、ポルトガルにあるポウザーダの中でも人気が高い理由のひとつです。
それぞれの部屋にオビドスで過ごした歴代の王や王妃の名前を付けるなど、ロマンチックな演出も!
王室がひとときの安らぎを求めて心を癒したのと同じ場所で、優雅な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
ホテル併設のレストランがありますので、ランチで立ち寄るのもおススメですよ。
多彩なお祭り
オビドスは1年を通して、興味深いお祭りが目白押しです。
その中でも、是非このタイミングに合わせて訪れたいお祭りを2つ紹介します。
1つ目は、毎年春に開催される(その年によって多少日にちが変わりますが、大体3月末から4月はじめ頃)「オビドス国際チョコレートフェスティバル(Festival Internacional de Chocolate de Óbidos)」です。
2002年からはじまったこのお祭りは、国内外のパティシエがテーマである”カカオのポテンシャルを最大限に生かした”チョコレートを提供したり、ワークショップやチョコレートの世界を表現した展示をしたりと、チョコレート好きには夢のような祭典です。
コロナの影響で昨年は中止となってしまいましたが、20年目を迎えた節目の2022年の開催が決定しました。
街中にあふれる甘いカカオの香りとかわいいチョコレートのオブジェが、中世の街並みと相まって幸せなひとときを演出してくれます。
2つ目は、雰囲気もがらりと変わって毎年夏に開催される「オビドス中世祭り(Óbidos Mercado Medieval)」です。
オビドスの街全体が中世にタイムスリップしたかのような、歴史ロマン溢れるスケールの大きいお祭りです。
城の周りを中心に、当時の生活をしのばせるマーケットや臨場感あふれる音楽、そして中世の騎士が城を征服する様子を再現したショーなど盛りだくさん。
中世の衣装体験もできるので、テーマパーク気分で家族や友人たちと1日じゅう楽しめます。
(公式サイトによると、コロナの影響で2019年から開催は中止となっています。しかし、コロナに向き合う教訓として中世の生活を伝えるこのイベントの意義を記しており、再開へ期待したいところです。)
HP: オビドス中世祭り
12月にはクリスマスマーケットが開催され、街全体がクリスマス一色に染まります!
どれも楽しいイベントばかりで、いつ訪れたらいいか迷ってしまいますね。
ラゴーア・デ・オビドス(オビドス潟湖)
オビドスと言うと城壁の中に注目がいってしまうのですが、実は近くには美しい海岸線があって、はるか昔には城壁のすぐそこまで波しぶきが立っていたそうです。
城壁の北西には自然保護区が広がっています。
その中にある「ラゴーア・デ・オビドス(Lagoa de Óbidos)」は、あまり観光客に知られていない穴場のスポットです。海水と淡水が混ざり合う汽水地域で、多種多様な生態系が見られます。
そして、長い海岸線と並行する砂丘が海と潟湖(ラグーン)を隔てており、風によって砂丘の形や海の潮位が変化して潟湖の水位が変わる現象はここでしか見れない希少なものです。
見るたびに形を変える潟湖は美しく、浜辺には木製の歩行デッキが整備されているので、軽い運動などしてリフレッシュするのにもぴったりです。(公共交通機関はないので、車を借りるかタクシー利用)
【ここに来たらはずせない!】おすすめのグルメ&お土産
オビドスに来たらはずせない名物を紹介します。
ポルトガルのお酒というと、料理のソースなどに使われる「ポートワイン」が有名ですが、ひそかに人気を集めるお酒がオビドスにあります。
「ジンジャ・デ・オビドス(Ginja de Óbidos)」はジンジーニャ”の愛称で親しまれるジンジャというサクランボの一種で作られたリキュールのことです。
ラベルのデザインがかわいいとお土産に喜ばれますが、おススメはオビドス観光の名物にもなっている、街歩きをしながらその場で味わうことです。
少しとろっとした甘いリキュールをお猪口サイズのチョコレートで出来たカップに入れて飲むスタイルはオビドスならでは。
サクランボの香りとチョコのほろ苦さが絶妙で、カップ1つ大体1ユーロという手軽さのせいか、あちこちでカップ片手の観光客とすれ違います。
最近ではホワイトチョコのカップを出したり、リキュールを使ったお菓子を置いたりするカフェも増えています。
ディレイタ通りを歩いているとチョコのカップを持った店員さんが軒先で笑顔で迎えてくれます。「うちのジンジャが一番」という言葉に惹かれて入ったお店「ジンジーニャ・ダ・ポルタ セッテ(Ginjinha da Porta 7)」はガイドブック常連の人気店ですが、こじんまりとした店構えが素敵なカフェです。
オビドスにどうしても行く時間がとれない!オビドスのジンジャが恋しくなった!という方は、その名もズバリ「ア ジンジーニャ(A Ginjinha)」へ。
リスボンの中心ロシオ広場の片隅にある、こじんまりとした立ち飲みスタイルのバーです。
ショットグラスにジンジャを入れて提供してくれます。
観光客はもちろん地元の方も集う可愛らしい間口が目印。
ジンジャは甘くて飲みやすい口当たりですが、度数は高めなのでお酒の弱い方はほどほどに。
【店舗情報】ジンジーニャ・ダ・ポルタ7<セッテ>(Ginjinha da Porta 7)
住所: Rua Direita 58, Óbidos
営業時間:9:00~20:00
定休日:なし
※カード不可
HP:なし
【店舗情報】ア ジンジーニャ(A Ginjinha)
住所: Largo de Sao Domingos 8 Rossio Lisbon
営業時間:9:00~22:00
定休日:なし
HP:なし
※どちらの店舗も1ユーロや2ユーロ硬貨を用意しておくとよいでしょう。
※コロナの影響で営業時間が異なる場合があります。
スポットマップ
まとめ
中世の面影を色濃く残す城壁の高台から見下ろすと、スノードームのように愛らしい街並みが時間を忘れさせてくれるオビドス。
そして、この町を歩けば歴代の王妃が愛した優雅な時間が今でも流れていることに気づくでしょう。
「中世の箱庭」という可愛らしい表現と合わせて「谷間の真珠」と称されるのは、この街並みが長い間王室に親しまれた名誉と気品に満ち溢れているからかもしれません。
ほんのひととき、何もかも忘れて、中世のおとぎの国の世界へ迷い込んでみてはいかがでしょうか。
※各施設・店舗の情報は2022年2月の情報です。今後変わる可能性がありますので、最新の情報は公式HPなどでご確認ください。
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